【短編小説】骨伝導イヤホン

灯り

※この記事は物語を書いています。




【登場人物】

ほわ:普段はほんわかした性格であり、時にはネガティブになることもある。パートナーのぽじの斜め上をいった言動に困惑したり反発することもある。


ぽじ:ほわのパートナー。楽観的な性格で、物事をポジティブに解釈する。言動がぶっとんでるように思えることも多いが、実は、緻密な考察をしているのかも?




【短編小説】骨伝導イヤホン

1、骨伝導イヤホンを買った。

ほわ「見てみてー!
前からほしかったイヤホン買ったんだー!」

ぽじ「イヤホン持ってなかったっけ?」

ほわ「これは、骨伝導のやつなんだよ。」

ぽじ「あっ!骨を通して音が聞こえるという…。」

ほわ「そう!耳を塞がずに、耳にかけるだけで
音が聞こえるんだってさ。」

ぽじ「耳にかけるだけで、本当に聞こえるのかな?」

ほわ「そうみたいよ。ちょっとやってみるねー。
・・・。これでよしっと。
あ!聞こえた!
耳が塞がってないのに聞こえて変な感じー。」

ぽじ「これなら周りの音も聞こえるからいいね。

ほわ「いやー、いい買い物したわ!」





2、ある程度の音漏れは許容範囲。

ぽじ「でも、ちょっと音漏れしているね。」

ほわ「本当にー?!ちょっと、ぽじがやってみて。」

ぽじ「OK。じゃあ、流すよ。」

ほわ「本当だー。音漏れしてる。
イヤホンの音量を大きくすると、
けっこう音漏れするのね・・・。」

ぽじ「パッケージには[骨伝導イヤホン]」って
書いてあるけどね。
調べてみたら、骨伝導性が弱いイヤホンは、
ある程度の音漏れするそうね。」

ほわ「そういえば、この商品の口コミに
そんなこと書いてあった気がする。

でも、家の中とか、人があまりいないところで使うから、
特に困らないかも。」

ぽじ「それなら良かったんじゃない?」





3、ぽじの普通のイヤホンを
骨伝導用にしてみる?

ぽじ「そういえばここに、
使ってなかったイヤホンがあったな。」

ほわ「あぁ。有線の普通のイヤホンね。
ここ何年も使ってなかったよね。」

ぽじ「ところで、爪切りって、ハサミの代わりにもなって、
意外と使い勝手がいいんだよね。」

ほわ「え?何の話をして・・・る・・?
って、おいおい!!!」

ぽじ「爪が切れるくらいだから、
なかなかの切れ味だな。」

ほわ「って、イヤホンの線を切っちゃって、
もう使えないじゃん!」

ぽじ「まぁ、ワイヤレスイヤホンにすると
便利かなってさ。」

ほわ「・・・。
ワイヤレスにしても音出ないんですけど?」

ぽじ「セロテープで固定して…。
よし!耳たぶあたりにイヤホンの先が
あるから、
ほわの骨伝導イヤホンみたいになったよー。」

ほわ「有線のイヤホンを壊しただけじゃん…。
[つくってあそぼ]のワクワクさんもビックリだよ…」




4、イヤホンの線を切って
何が変わるの?

ぽじ「あれ!スマホから音楽流したのに、
イヤホンから音が出ない!!
ただスマホから音楽が流れているだけだわー。」

ほわ(こんなカオスな状況、
いつまで続くのかしら。)

ぽじ「でも、耳が塞がってないから、
周りの音が聞こえてて便利だわー。」

ほわ「そうだねー(適当)。
本当に良かったねー(適当)。
・・・ハァー。」

ほわ(このくだり、早く終わらないかな…。)

ぽじ「ほら!ほわのため息も聞こえたよ!
ここでイヤホンしてたら聞こえなかったものなー。
すごいでしょ?!」

ほわ「もういい加減にしてよ!
毎回、ぽじの破天荒に付き合わされている
私の身になってよ!

その使えないイヤホンでずっと遊んでれば?!」


ぽじ「ちょっと待って!
たしかに線を切ったイヤホンは何の役にも立たない。

でも、このイヤホンが使えなくなって、
耳を塞ぐものがなくなったってことは、
俺たちの生活に何か意味が
もたらされるんじゃないかな?!」

ほわ「イヤホンの線を爪切りで切って、
何の意味があるっていうのよ!」




5、便利な生活が
心の遮断にならないように。

ぽじ「イヤホンは便利だ。
でも、耳にイヤホンをつけると、
周りの人の声が聞こえなくなる。

それは、相手との心のやりとりを遮断している。

だから、骨伝導イヤホンは相手の声が聞こえるから、
そんな悩みも解消してくれて、たしかに便利だ。」


ほわ「そんなのわかっているわよ!」


ぽじ「だから、骨伝導イヤホンがあれば、
自分の好きな音楽を聴きながら、
家族とのコミュニケーションもとれる。

そんなふうに思っていた。

でも、便利になればなるほど、
人の生活に歪みが起きやすいことも知っている。

骨伝導イヤホンを使っての運転は、
都道府県によっては禁止されているところも
あるみたいなんだ。

それは、なんでだと思う?」


ほわ「イヤホンからの音で運転に
支障が出たら危ないから?」


ぽじ「それもあると思う。

その運転に支障が出るっていうのは、

[音楽に心が持っていかれている]

こういう状態だから危ないんじゃないな?



ほわが友達と話してる時、
友達がスマホ見ながら話していたら、
[話ちゃんと聞いてくれているのかな?]
って思うでしょ?

耳は塞がってないから、ほわの話は
ちゃんと聞こえている。

でも、そのような気持ちになるのは、
友達がスマホに心を持っていかれて、
ほわが置いてきぼりになっていると
感じるからなんだよ。」



ほわ「たしかに、それはあるね。」




6、大切な人にだけ
心はもっていかれる。

ぽじ「どんなに生活が豊かになったとしても、
大切な人の話には耳を傾けるだけでなく、
心で向き合って受け止めてあげてほしい。


表面上の会話の内容じゃなくて、
その奥底にある大切な人の気持ちを
考えて、見守ってほしい。
そして、時には手を差し伸べてほしい。



ほわがさっき、ため息を吐いた時、
イヤホンの線を切ってなかったら
聞こえなかったはずだ。


ため息を吐く日もある。
鼻歌を奏でる日だってある。


これからの長い人生、
そんな声に、心から受け止めて、
寄り添っていくからね。


心を持っていかれるのは、
イヤホンの音楽じゃなくて、
目の前にいる人なんだとわかったんだ!」」



ほわ「えっ・・・。
それって、まさか・・・。」



ぽじ「線を切って音楽は聞こえないけど、
ほわの声がしっかり聞こえる、
このイヤホン。

俺ら2人の記念品になったね。」


ほわ(こんなプロポーズのしかたが
あっただなんて!)






さいごに

「相手の話をしっかり聞く。」

とても大切なことである。


でも、毎日毎日、
それを意識して実行するのは難しい。


時には、心ここにあらずの状態で、
何となく話を聞いてしまうことも
あるかもしれない。


そんな時は、線を切って使えないイヤホンのように、
心が持っていかれるものを一度遮断して、
心が空っぽの状態で、
大切な人の話を聞いてあげよう。


「自分の話をちゃんと聞いてくれている。」

大切な人が、このように思ってもらえれば、
良好な関係が長続きするのではないだろうか。


どんなに生活が便利になっても、
これだけは忘れないようにしたい。










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